賃貸に関するお話
しかしともかく、ふまえて、経営者の主導による「年と功」賃金の近代的再編というところから説明をはじめよう。
戦後初期、労働組合の力がつよかった時代に生み出された「年の功」賃金は、ほどなく経営権の復権をとげた企業にとって克服の対象になった。
その理由は二点ほど考えられよう。
一つは賃金コストである。
たとえば昇給線の枝分かれのない年齢別賃金は、企業の発展が続いて賃金の低い若年層の雇用が不断にふえてゆくのでないかぎり、平均賃金をいくらも引き上げてゆく。
およそ60年代に入るまでの企業はそんな状態にあって、賃金支払い総額(平均賃金×従業員数)の節約がむつかしかった。
企業にとってのこの問題の深刻さは、いまでも従業員の平均年齢の高まりと低成長が重なるとき、とくに中高年層の賃金の頭うちがはかられることからもわかる。
経営者が望んだのは、年齢別人員構成のかたちにかかわらず賃金総額の低位・安定的管理のできる、複数または枝分かれの昇給線をもつ年功賃金であった。
もう一つはいうまでもなく、「ところ天式の」賃金では、労働者を最大限がんばって働かせる誘因にならないということだ。
すでに述べたように、この時代には、後に日本的経営を特徴づけるような、ムダのない働き方を強いる精緻な労働組織もいまだしだった。
そのかわり残業で稼ぐことを余儀なくさせる貧困と、企業の発展を支えようとする一般的な忠誠心(私自身はあまりその実在を信じてはいないけれども)はあったかもしれない。
しかしなお、階層差別もあって「出世」もかぎられているノンエリート労働者たちが、人一番のがんばりが賃金面で報われないのに自発的に刻苦精励するとは、やはり期待できないのである。
そこで経営側は、戦後初期の「無秩序状態」が収まりかけた50年代末、まず人事考課つき定期昇給制を導入する。
関東経営者協会1954年の言明では「定昇制即人事考課」であった。
けれども、その定昇制の運用における格差昇給の論理もなお組合を圧倒することはできず、それ以降10年ほどは、日本企業も、アメリカ出生の職務分析手法の上に立つ職務給の導入を試みている。
顕在能力・仕事に応じて支払うこのシステムならば、職務の上位・下位の分布構造はおよそピラミッドに近いかたちになるゆえに、もっとも直接的に賃金総額の低位・安定管理に寄与すると考えられたからである。
ここでは原則上、職務のランクアップがなければ昇給はない。
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